文士の筆跡 5：俳人篇

はじめに
　古来、俳人の生涯かけての宿願は、境涯の一句を石に刻み、句碑として永遠に残すことであつた。そしてその書体は、作品の文体と同等の価値を担うものとして評価されて来たものである。
　一葉の短冊、一枚の色紙、あるいは半切に、句が過不足なく乗るか、乗らぬかによつても、作品の価値は左右されて来たのである。
　俳句を作るということは、俳句を書くことででもあつたわけだ。
　本篇では、子規居士以降現代までの著名俳人五十八名・三百五十四点の真蹟を収録、近来とかく等閑に附され勝ちの「書かれた俳句」の真の鑑賞の場としたわけである。明治・大正・昭和三代にわたる近代俳句史上、未見の作品、稀覯の筆跡も多数含まれているはずである。
　末筆となつたが、本篇を編むに当つて、貴重な資料を惜しみなくご提供下さつた諸卿のご厚情に、心より感謝申しあげる次第である。

　　　昭和四十三年早春　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　楠本憲吉
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（本文〝はじめに〟より）

俳人篇

はじめに　―――――――――――――――――――――――――――――――――――楠本憲吉

正岡子規／内藤鳴雪／夏目漱石／尾崎紅葉／巌谷小波／松瀬青々／水落露石／坂本四方太／
石井露月／河東碧梧桐／高浜虚子／青木月斗／松根東洋城／村上鬼城／臼田亜浪／大須賀乙字／
小沢碧童／喜谷六花／鈴木花蓑／渡辺水巴／飯田蛇笏／原石鼎／高田蝶衣／前田普羅／
荻原井泉水／尾崎放哉／中塚一碧楼／栗林一石路／久保田万太郎／室生犀星／久米正雄／
芥川龍之介／滝井孝作／杉田久女／長谷川かな女／吉岡禅寺洞／日野草城／水原秋桜子／
富安風生／山口誓子／山口青邨／高野素十／阿波野青畝／後藤夜半／川端茅舎／中村草田男／
松本たかし／加藤楸邨／石田波郷／芝不器男／西東三鬼／石塚友二／橋本多佳子／中村汀女／
星野立子／秋元不死男／大野林火／木下夕爾

近代俳句史―――――――――――――――――――――――――――――――――――楠本憲吉
俳人の筆跡―――――――――――――――――――――――――――――――――――松井如流
図版目録