立松和平が読む 良寛さんの和歌・俳句
たてまつわへいがよむ りょうかんさんのわか・はいく

立松和平、最後のメッセージ
仏教、道元、そして良寛。深遠な世界を丁寧に読み込む。 有名な「この里に手まりつきつつ子供らと遊ぶ春日は暮れずともよし」を始めとして、良寛さんは折々の感懐を多くの詩歌に託しました。本書では、道元禅師についての深い理解を踏まえながら、和歌や俳句にこめられた仏教者としての良寛さんの心情を読み解いてゆきます。
良寛は自分の生涯を整理して語ったことはない。
自分のことを語ったのは、詩歌によってである。
だから、今もエネルギーを失わず生き生きと躍動していて美しいのである。
その美しさは永遠であるに違いない。――立松和平(「後記」より抜粋)
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仏教、道元、そして良寛。深遠な世界を丁寧に読み込む。 有名な「この里に手まりつきつつ子供らと遊ぶ春日は暮れずともよし」を始めとして、良寛さんは折々の感懐を多くの詩歌に託しました。本書では、道元禅師についての深い理解を踏まえながら、和歌や俳句にこめられた仏教者としての良寛さんの心情を読み解いてゆきます。
良寛は自分の生涯を整理して語ったことはない。
自分のことを語ったのは、詩歌によってである。
だから、今もエネルギーを失わず生き生きと躍動していて美しいのである。
その美しさは永遠であるに違いない。――立松和平(「後記」より抜粋)
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序文 高井有一
第一章[春]
梅の花散るかとばかり見るまでに降るはたまらぬ春の淡雪
春の野に若菜摘みつつ雉子の声きけばむかしの思ほゆらくに
春がすみ立ちにし日より山川に心は遠くなりにけるかな
ひさかたののどけき空に酔ひふせば夢もたへなり花の木の下
道のべに菫つみつつ鉢の子を忘れてぞ来しあはれ鉢の子
この宮ノ森の木下に子供らと遊ぶ春日になりにけらしも
この里に手まりつきつつ子供らと遊ぶ春日は暮れずともよし
春雨のわけて其れとは降らねどもうくる草木のおのがまにまに
手にさはるものこそなけれ法の道それがさながらそれにありせば
あしひきの山べに住めばすべをなみしきみ摘みつつこの日暮らしつ
第二章[庵]
柴やこらん清水や汲まん菜やつまん時雨の雨の降らぬまぎれに
軒も庭も降り埋めける雪のうちにいや珍しき人の音づれ
歌もよまん手鞠もつかん野にも出でん心一つを定めかねつも
時鳥いたくな鳴きそさらでだに草の庵は淋しきものを
草の庵にひとりしぬればさ夜更けて太田の森に鳴くほととぎす
なきあとのかたみともがな春は花夏ほととぎす秋はもみぢば
風は清し月はさやけしいざともに踊りあかさん老のなごりに
ひさかたの雨の晴れ間に出でて見れば青み渡りぬ四方の山々
第三章[月と露]
ゆきかへり見れどもあかずわが庵の薄がうへにおける白露
秋の野の草ばの露を玉と見てとらんとすればかつ消えにけり
おく露に心はなきを紅葉ばのうすきも濃きもおのがまにまに
秋の雨の晴れ間に出でて子供らと山路をたどれば裳のすそ濡れぬ
散りぬらば惜しくもあるか萩の花今宵の月にかざして行かん
第四章[ふる里]
紀の国の高ぬのおくの古寺に杉のしづくを聞きあかしつつ
来て見れば我がふる里は荒れにけり庭もまがきも落葉のみして
あわ雪の中に立ちたる三千大千世界また其の中にあわ雪ぞ降る
世の中にかかはらぬ身と思へども暮るるは惜しきものにぞありける
たらちねの母がかたみと朝夕に佐渡の島べをうち見つるかも
うちつけに死なば死なずて長へてかかるうき目を見るがわびしさ
つきて見よひふみよいむなやここのとを十とをさめて又始まるを
いづこへも立ちてを行かん明日よりは烏てふ名を人のつくれば
梓弓春になりなば草の庵をとくとひてましあひたきものを
第五章[俳句]
酔臥の宿はここか蓮の花
梅が香の朝日に匂へ夕桜
蘇迷廬の音信告げよ夜の雁
盗人に取り残されし窓の月
雨の降る日はあはれなり良寛坊
焚くほどは風がもて来る落ち葉かな
手拭で年をかくすやぼんをどり
さわぐ子のとる知慧はなしはつほたる
うらを見せおもてを見せて散るもみぢ
書図版
魂を吸われる ―良寛の書―
後記
第一章[春]
梅の花散るかとばかり見るまでに降るはたまらぬ春の淡雪
春の野に若菜摘みつつ雉子の声きけばむかしの思ほゆらくに
春がすみ立ちにし日より山川に心は遠くなりにけるかな
ひさかたののどけき空に酔ひふせば夢もたへなり花の木の下
道のべに菫つみつつ鉢の子を忘れてぞ来しあはれ鉢の子
この宮ノ森の木下に子供らと遊ぶ春日になりにけらしも
この里に手まりつきつつ子供らと遊ぶ春日は暮れずともよし
春雨のわけて其れとは降らねどもうくる草木のおのがまにまに
手にさはるものこそなけれ法の道それがさながらそれにありせば
あしひきの山べに住めばすべをなみしきみ摘みつつこの日暮らしつ
第二章[庵]
柴やこらん清水や汲まん菜やつまん時雨の雨の降らぬまぎれに
軒も庭も降り埋めける雪のうちにいや珍しき人の音づれ
歌もよまん手鞠もつかん野にも出でん心一つを定めかねつも
時鳥いたくな鳴きそさらでだに草の庵は淋しきものを
草の庵にひとりしぬればさ夜更けて太田の森に鳴くほととぎす
なきあとのかたみともがな春は花夏ほととぎす秋はもみぢば
風は清し月はさやけしいざともに踊りあかさん老のなごりに
ひさかたの雨の晴れ間に出でて見れば青み渡りぬ四方の山々
第三章[月と露]
ゆきかへり見れどもあかずわが庵の薄がうへにおける白露
秋の野の草ばの露を玉と見てとらんとすればかつ消えにけり
おく露に心はなきを紅葉ばのうすきも濃きもおのがまにまに
秋の雨の晴れ間に出でて子供らと山路をたどれば裳のすそ濡れぬ
散りぬらば惜しくもあるか萩の花今宵の月にかざして行かん
第四章[ふる里]
紀の国の高ぬのおくの古寺に杉のしづくを聞きあかしつつ
来て見れば我がふる里は荒れにけり庭もまがきも落葉のみして
あわ雪の中に立ちたる三千大千世界また其の中にあわ雪ぞ降る
世の中にかかはらぬ身と思へども暮るるは惜しきものにぞありける
たらちねの母がかたみと朝夕に佐渡の島べをうち見つるかも
うちつけに死なば死なずて長へてかかるうき目を見るがわびしさ
つきて見よひふみよいむなやここのとを十とをさめて又始まるを
いづこへも立ちてを行かん明日よりは烏てふ名を人のつくれば
梓弓春になりなば草の庵をとくとひてましあひたきものを
第五章[俳句]
酔臥の宿はここか蓮の花
梅が香の朝日に匂へ夕桜
蘇迷廬の音信告げよ夜の雁
盗人に取り残されし窓の月
雨の降る日はあはれなり良寛坊
焚くほどは風がもて来る落ち葉かな
手拭で年をかくすやぼんをどり
さわぐ子のとる知慧はなしはつほたる
うらを見せおもてを見せて散るもみぢ
書図版
魂を吸われる ―良寛の書―
後記
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